庚申窯のコウヅルユウタです。
オンラインショップ「くろつる屋」でのブログを
1週間分まとめて転載しております。
いやーなかなか分量がありますな。
でも今後も続いていくならもっと簡素になっていくと思うので、
こんなに文字が多いのは最初だけでしょう。
目指せ海老蔵!
くろつる屋の方もぜひみてね!
〜〜〜〜〜
4月16日 晴れ
上野焼窯元 庚申窯3代目高鶴裕太です。
漢字ばかりなのでよみがなを。
あがのやき かまもと こうしんがま3代目 こうづるゆうたです。
先ほど全国緊急事態宣言がニュースになってましたが
皆さんいかがお過ごしでしょうか。
私は一応陶芸家なんですけど非常に開放的な引きこもりでして、
というのも田舎暮らしで敷地が広いもんで、
外に出て陽にあたって労働したり、人に会ったりしてても、
1日終わって気づいたら敷地の外に一歩も出てないなんてことはざらにある、
というかほぼ毎日そんな状態でして、
しかもこの陶芸という仕事が全て自宅でできるもんだからまあ外に出まへん。
田舎の生活に必要不可欠と言われる車の燃料を入れるのが3ヶ月に1回くらいだから、
かつて坂東英二が言っていた「車を持つよりもタクシー使った方が安上がり」理論に
バッチリ当てはまる引きこもりぶりです。しょっちゅうバッテリーが上がりやがるぜ。
こんな感じなのでコロナウイルスが騒がれて、未だその渦中ですが、
何にも暮らしぶりが変わりません。
じゃあどうしてそんな外に出ずに平気なのか、
人恋しいという神経を虫歯と一緒に抜いちまったのか、
4人以上の人前に出ると動悸吐き気でも起こるのか、
何か非合法な植物でも育てているのか、
友達がいないのか、
ニヒリストなのか、
という風に人から変だと言われ続けている私、
その私の真面目さ勤勉さ優秀さ愛情深さを証明するために
ベイスのブログでは、私の日常というのを
掲載してみたいと思っております。
まあ答えから言うと私は大変な無精なので、
とにかく色々やるのがめんどくさい、
できれば一日中寝ていたいという性格なので、
このブログというのがいつまで続くかわかりませんが、
まあよろしゅうお願い申し上げ候。ちゃんちゃん
4月17日 くもりのち雨
庚申窯には何匹か猫がいて、
毎日登場するレギュラー猫が2匹、
準レギュラーが2匹、カメオ出演が2~3匹
というのが最近の猫劇団の構成で、
すべて野良で
いつの間にか居ついてて、
いつの間にか居なくなります。
餌をねだるか、喧嘩をしているか以外は全て寝て過ごすという
大変無駄のない暮らし方をしている無頼者たちで、
それは男の理想の生き方の一つではないかしらん。
これ↓は2日前くらいから来た新顔で、
レギュラーになろうと各人に頭頂部すりつけ営業をしている愛嬌者。
無頼の生き方には こういう処世術が欠かせないみたい。
陽気が良くなってきて、
猫の毛も生え変わる時期みたいで、
道端に冬毛の丸まりが、
西部劇の転がる草みたいに ころころ落ちている。
普段寝て過ごしているくせに気まぐれに抜群の瞬発力を見せるあの無頼者たちが いやしないか、
あたりを見渡しながら、彼らの落とし物を口いっぱいに頬張って飛んでいった。
柔らかい冬毛は上質な寝床になるから建築材として収集してるらしい。
とても愛らしい光景でした。
昼はくすりかけ(素焼きの器に釉薬をかける作業)をして、
その作業も猫に邪魔されたりしながら、
灯油の窯に突っ込んで、たっぷり煙を出しながら5~6時間ほどで焼き上がり。
さっき見たら温度が800度くらいだったから、
夜の1時くらいには火が止められると思うけど、
これ↓改めて見るとレンガもボロボロで、
そろそろ壊れてもおかしくない、というか崩れた箇所を修復しては別の箇所が崩れるという状態だけど、
これがなかなかいい色を出してくれるので、一番使い慣れてる窯です。
ところでこの写真のはポロンというスペインのデキャンタなのですが、
実際にワインが美味しくなるからなかなか気に入ってて、
おすすめです。
次はポロンのことでも。
4月18日 晴れ
昨日焼いてたポロンが出来上がりました。
ワラジロ釉がきれいに溶けて、青みがかった白になっています。
んがしかし!注ぎ口のところが釉薬で埋まっていやがる!
ちゃんと注意したのに!
これではこいつのレーゾンデートルが揺らいでしまう!
という時には、このまま洗いにくい花瓶としての道を歩ませるのも一興ですが、
口の部分をグラインダーで削って穴を通します。
陶芸家の隠れた必須アイテム グラインダー!
しかし私は前に金属用グラインダーで指がえぐれたことがあるので
とても苦手です!すげーうるさいし。
今回はゆっくり削れて、断面もきれいになる
80目の研磨ペーパーのグラインダーで口の発掘作業を行います。
ゆっくり削れる分粉塵も細かくなるのでメガネとマスクを。
工作員の気分を味わえますね。
1cmほど削ると口が空きました。
1cmも流れ込んでるってことは完全に釉薬のかけ過ぎでしたね。
次回気をつけてね。
まあでもこのシャープな断面は引き締め効果になって
このやり方もありなんではないかしらん。
ガラスのやつも確かこんな感じで穴を通しますし。
ではポロンでワインを注いでみましょう。
ワインがなかったので去年か一昨年に作った
クワの実とヤマモモの果実酒を使います。
どっちも庚申窯になってる果物で、
ホワイトリカーにつけたものですね。
発酵させて作ったわけではありませんのでドントコールザポリース。
これはカシスリキュールの瓶に
まだ少し中身が入ってたけど構わず果実酒を加えて
そのままずっと放置していたもので、
どんなもんかと思い飲んでみたら
それぞれしっかりなじんでて
多分美味しいと言える仕上がりになってました。
甘いからあんまり飲めないけど、色がいいよね。
ポロンって本来は口に直接受けてヒャッホーイってなるものだけど、
グラスに注いでもちゃんと味が変わります。
変わるというか開放されたような感じで、
緊張してたけどポロンさんのおかげで体が軽くなりました さあこれが僕の本当の実力です 余すところなく堪能しやがってください そーれそれそれ、って感じですね。ワインが。
でもホントのところはどうなんでしょ。
空気に触れるから味わいがよくなるのか、
パフォーマンス的に高揚する部分もあるのか、
でもパフォーマンスで美味しくなるならそれは使わない手はないぞい。
てことでポロンは何人かで飲む時に楽しい器だと思います。
パーティーなんかで使われてみてはいかがでしょうか。
4月19日 小雨
今日は降ってるのか降ってないのか曖昧な天気で
民族の気質は風土による影響が大きいと言われるけど、
こんな感じの天気も、日本人の性格にいくらか影響を与えているんでしょう。
曖昧なものは好きなたちで、
会話に主語がないし、
自分の意思も どっちでもいいや なんてのが多いし、
視覚的にもはっきりしたものよりは
ぼやけたようなものの方を好むので、
陶器の釉薬もはっきりしない所がいい所だと思っています。
これ↑は昨日焼いて今日窯から出したもので、
十重(とえ)というシリーズの小皿です。
十重二十重の十重ですね。
とへ って書いた方が趣ある感じするかも。
たくさん重ねて収納できるのでこんな名前です。
この釉薬みたいな遠目にはぼんやり曖昧で、
近寄るとまたそこに図形の羅列があるというのは
視点の大小で広がりがあって
そういうのはやはり好きですね。
雨の庭で この苔なんかも近寄ってみてみると
色々な形があって、まあこれは苔の花の方なんだけど、
苔って近くで見ると気持ち悪いねとか、
個別でとらえると印象が違うとか、
髪の毛の間からこんなの生えてきたらどうしようとか、
こちらも広がりを感じます。
庚申窯には裏庭a.k.a見放された沼 があって
そこにはいくつか苔むした石があり、
それを焼き物の鉢に移したものです。
遠目で見るとこんな感じで、
私が前に作った白の大鉢に
苔石が鎮座ましましております。
もともとメダカを飼ってた鉢だけど、
やはり私の作ったものだからエネルギーが他とは違うのか、
この鉢だけすぐに水が藻だらけになるので
苔石用にジョブチェンジしました。
白いから日光が入りやすかったせいだとか
そんな反論の出しにくい説は受け付けません。
半日陰のところに置いてあるので
これからどのようになるか楽しみです。
こんなふうに時間をかけて
無機物が有機物と混じっていくってのも好きですね。
何より放っといてOKっていうのがいいよね。
いよっ蘚苔類!
4月20日 くもりのち晴れ
本日のBGM Novo
昨日は日が暮れてから
風が強くなり
雨も激しくなって、
庚申窯の桜たちも
八重桜を残して
ほとんど散ったようです。
この八重桜
桜茶にすることができるらしいから
ぜひ利用したいのだけど、
去年のはゆっくりと
腐らせただけだったので
今年はリヴェンジですね。復讐!
ところで雨が大量に降ると
山に水が溜まって
次の日まで
川を水がガンガン流れていきます。
(なので雨の翌日の登山は
ベチャベチャで最悪だから
やめた方がいいと思いますが)
庚申窯の名前の由来は
お店の目の前に庚申橋という橋と
庚申塚があるので
そこから名前をとって
庚申窯となっています。
てことは川があって、
その川は普段は大人しいけど
雨がよく降ると水がガンガンです。
ガンガンの時は結構コワコワです。
ガンガン水が流れると
山の方から流木や
石などを運んできます。
庚申橋の下あたりがちょうど
広場みたいになってるので
流れ者たちが溜まりやすく、
雨の次の日は
いい感じの流木がないか
探しにいきます。
水は好きですし。
私のいい感じの流木評価基準は、
角が取れて柔らかい印象のだとか、
時間を感じさせる貫禄のあるのだとか、
100か0かの評価に分かれそうなのとか、
堅そうとか、
そんな感じのです。
今日拾ったのは木の皮の流木で、
しっかり重さもある貫禄な方のやつですね。
なんの木なんでしょうね。
ここで種類も言えたらかっこつけられるのですが。
しかしこれ海の流木と違って
塩気を含んでないから、
淡水魚のアクアリウムに
使えるんじゃないかしら。
あるいはインテリアとか
お風呂のお供にとか。
でもお風呂のお供なら
塩気含んでる方が
入浴効果ありそうですな。
いいよぉ〜流木を抱いて風呂に入るって。
非常に主観的な価値基準を感じるね!
そういうのは幸福に近いんじゃないかな。
客観とかは知らねえっつってね。
4月21日 くもりのち晴れ
今日は釉薬をかけといた器が
ある程度たまったので窯詰めを。
これは電気窯で、
設定した温度と時間で
自動的に焼いてくれる便利な窯なのですが、
実は電気窯でも内部の温度は一定ではなくて、
一番下の段が一番温度が低く、
真ん中より上くらいが一番温度が高くなり、
一番上は下ほどではないけど温度が低いという
温度分布になっています。
そいで釉薬にはそれぞれ融点(ゆうてん:物質が液体になる温度)
というものがございまして、
例えばワラの灰を用いたワラ白釉は
高温じゃないと溶けなくて、
一方酸化鉄を用いた鉄赤釉は高温になると
溶けすぎて棚板とくっついて失敗作になる、
という具合に色によって溶ける温度が違います。
なのでこの窯の中の配置も
ワラ白なら真ん中上のあたり、
鉄赤なら一番下、
という風にそれぞれがちょうど良い温度のところへ
置いていきます。
これが窯詰めですね。
なのでなので
もしワラ白ばかりで焼いてしまうと
下の段の器はいい色にならなかったり、
鉄赤ばかりで焼いてしまうと
上の方はすべて失敗作になるので、
それぞれ融点の異なる器が程よく揃っていないと
窯詰めすることができません。
そいでそいで
窯の中の写真で分かる通り、
大きい器ほど場所をとります。
窯を焚くのに燃料費や電気代がかかりますし、
窯の耐用年数もあるので(この電気窯は完全にオーバーしていますが)
一回の窯焚きでは なるべくたくさん品物を入れた方がお得!
つまりでかい器は場所をとりすぎてあまり入らない!
つまりつまり高い!!
ということになるんですね。
大きいものは高くなるという陶器の事情でした。
他にも理由はあるけどね。
さて、昼ごろ粘土作りをしていると
過剰にありすぎる物たちを
整理していた祖母から声をかけられ、
これは我が家の親戚の人が
先代の吉右衛門さんと懇意だったので
もっていたものです。
先代の吉右衛門さんの作品は結構好きで、
形と釉薬が上品だと思います。
この貫入が細かいのはおそらく
天然の灰を使ったもので、
貫入が細かいのってのは好きですね。
こっちの透明釉も、絵の呉須(ごす:コバルトのこと)
が溶け出してる分もありますが、
透明釉だけでもほんのりと青みがかっており、
透明釉がきれいなのはとてもいいですね。
釉薬として安定してるから使いやすいし、
応用が効きまくるので。
上と下の器を見比べても、
素材の木の種類によって、
透明具合がかなり変わるのが分かります。
あとはうちで長いこと使っていた
緑青流し(ろくしょうながし)の器も
祖母の手により発掘されました。
こちらも緑青が洗われて
大変綺麗な色になっていますね。
緑青流しに関しては、買った時よりも
何年も使ったものの方が綺麗になります。
なので買いましょう。
そしてたくさん使いましょう。
でも割れるかもしれない。
そのためにたくさんストックで持っとくといいんじゃないかなあ!
いっぱい買ったらいいんじゃないかなあ!
とは言ったものの現在くろつる屋には
緑青流しの品が一つも出ていませんでした。
今度いい感じに綺麗になるやつを
出品させていただきます。
その際はぜひ見てください。
4月22日 晴れ
さて今日は粘土づくり。
まあ今日はというか
春から秋にかけては
ほとんど毎日粘土は作っています。
庚申窯では粘土を手作りしてて、
今までは私が作っていて、
その前は祖父が作っていましたが、
今年から「自分の使う粘土は自分で作るべし」
という法案が私の強行採決により可決され、
父は父で、私は私で粘土を作っています。
こちら↑は一旦水に溶かした粘土を
網目で濾してゴミを取り除いてるところです。
私がメインで使ってる粘土の一つで、
薄作り用にきめ細かくて、ちょっと黄色っぽい
白色に焼き上がる粘土です。
網目は80目で、祖父の時からの濾し網をそのまま使っています。
もっと細かい、150目の粘土なども作ったことがありますが、
滑らかさと、使い勝手や強度を鑑みて
今のところ80目に落ち着いています。
150はかなり滑らかで手触りいいんですけど、
乾かすときにめちゃ割れるんですよね。
粘土の質かしら。
それに合う粘土が手に入ったら
作るかもしれませんね。
網目を通した粘土は滑らかになって、
タルの中に沈んだドロドロの部分を
すくい上げて、布にあげて水抜きします。
布にあげた状態で1~2週間ほど置いとくと
こんな感じ↓で水が抜けて
粘土っぽくなります。
これ↑に使う布は化学繊維の方が良くて、
綿とかでできたオーガニックなやつだと
長時間水と泥にさらされるので
微生物やカビに分解されて
すぐに破れてしまいます。
ちなみにこの布たち、元は
「陶器まつり」とか「窯開き」
とか書かれた のぼり旗で、
旗としての機能を果たせなくなった
人たちを再雇用しています。
めちゃ丈夫。アイラブターポリン!
水が抜けた粘土は布でぐるっと巻いて
瓦の上でさらに水抜きします。
ここも1週間〜2週間くらいですかね。
粘土作りはこの後ももう少し作業がありますが
今日の分はここまで。
粘土作りに時間がかかるのは
ほとんど乾き待ちですね。
庚申窯にはそれなりに原土があるので、
粘土を自分で作ると粘土代はタダになりますが、
そんなに高いもんでもないので、
粘土を業者から買って器を作ってる方が
たぶん安上がり、というか絶対そうで、
粘土作ってる時間でお皿作った方が
金銭的には効率が良いです。
まあでも粘土作り自体は好きな作業なので、
たぶん今後もこのスタイルでいくと思います。
なんで粘土作りが好きなのかと考えてみると、
粘土を作るという行為には
形を作るときみたいな迷いがなく、
昨日から今日に着実に進む成果があるからでしょうか。
そういう、やったことの実感が伴う行為というのは
精神的に充実するそうです。
物作りのバランスで考えると
粘土を作る方が効率がいいかもしれませんね。