あがの焼窯元 庚申窯(こうしんがま)

体験レポート

焼物に関する雑学を紹介します。

やきもので風鈴を作ろう

2014.06.16

このところだんだんと気温が上昇し、それに伴いテンションも上がってきている 「真夏の冷房車両が苦手」 庚申窯3代目(仮)コウヅルユウタです。

 

 

夏の風物詩と言えばおそらくだれもが 稲川淳二、海辺のお兄ちゃんのナンパ、スイカバーなどをおさえてぶっちぎりで風鈴を思い浮かべるものと思います。

その際の風鈴のイメージはガラスに金魚の絵なんかが入っているものだったりするんじゃないでしょうか。

 

風鈴は見た目の、また音の涼感を出すためにガラス製の風鈴がもっともポピュラーです。なんとなく涼しげですよね。

その次に多いのが音が長く響く金属製の風鈴です。たぶん。

 

 

そこでやきものの風鈴ってどうなの? と いうことで実際に作ってみて 陶器の特性を音から考えてみたいと思います。

 

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やきものと言った場合 陶器と磁器の両方をさすのですが  磁器においてはけっこう風鈴は作られています。

 

磁器と陶器の違いのなかでも触れていますが磁器ははじくと金属音のような高い音がします。

 

これは陶器で空いている極小の穴が磁器では開いておらず、隙間なく焼き締められているので音(=振動)が分散せず、うつわ全体で鳴り響くからなんですね。

もちろんガラス、金属も陶器のような穴がないので音が響きます。高い音になるのは材質が固いため振動が細かく(=周波数が高く)なるためです。

 

こう考えると土から作られた陶器は穴がたくさんあいており、また固さも磁器や金属より柔らかいため音がどうしても低く、ひびかないものになります。

 

たとえば“木”をたたいた場合に音が低く、響かないのと同じです。

ちなみに固い木を使った木風鈴なんて言うのもあるみたいですよ。

 

 

しかし陶器というものは表面に釉薬がかかっておりまして、

これがガラス質をベースに灰や金属なんかがまぜこぜになっているものでありまして、

したがって一口に陶器と言っても釉薬によって音の響き方が全く変わるので まずは庚申窯にあるやきものを片っ端からたたきにたたいて音のよしあしをみます。

 

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たたいている棒も陶器でできたコーヒーとかのかきまぜ棒です。

 

 

たとえばこの写真で見ますと左下と右下のものは上野焼の代表色 “総緑青(そうろくしょう)” でして この色はけっこういい音がします。

これは銅をベースとした釉薬で、比較的高い温度で焼かれるため(窯の内部でも下の方より上の方が温度が高く、総緑青は上の方に置かれます)であると予測できます。

 

逆に右上の水色のマグカップの釉薬は ベースが“わら灰”という  わらを焼いた灰を利用したもので音が全く響きません。

もっと言うならこのマグカップは保温性を高めるために分厚く作っているため高い音も出ませんでした。

 

 

と こんな感じで調べて音の良いものの傾向を調べると

 

球状のふくらみがあるもの、ろくろ目(左上のもの ろくろをひく際に指の跡を残したうつわのこと)のもの、黒・鉄・緑青など金属系の釉薬のもの、鉄分を含む土を使っているもの(庚申窯では赤土と呼んでいます)、薄く作られているもの となりました。

 

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何かを作る際には欠かせないアイデアノート(チョコバット仕様)。中身はぐちゃぐちゃで秘密保持性も高いです。

 

 

ではさっそく赤土を使ってろくろで薄く作ります。

 

早速 と言ってますがこの風鈴を作っているのも 先日アクロス福岡で行われた、上野焼の「夏の器展」用につくってくれ と 父である2代目高鶴享一に頼まれていたのですが   わたくしには締め切りだとか期限だとかを 便宜的に無視できるという特技がありまして、

 

完全に間に合わない状況になってから「あ そういえば風鈴とか作ろうかな」と思って作り始めたのがこれです。

 

 

ガラスや金属に比べて音の響きが悪いので平均的な風鈴よりも大きく作りました。さてどの形が一番音が響くでしょうか。

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つづいてさっそく風鈴の音を出すための舌(ぜつ)と呼ばれるあの風鈴の中でぶらぶら ぶら下がってる部分を作ります。

小さくて固いものがあたった方が高い音が出ると思い舌を小さめに作ってみました。これが後々の失敗にもつながります。はは。

 

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1〜2日置いて乾いたものをROKUROで削っていきます。普段はこの作業で高台を削り出します。より薄くするためにも側面も削り、ひもを通すための穴をあけます。

 

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さらに幾日かたって素焼きに。

これに釉薬をかけていきます。

 

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全国に100件くらいありそうなピーターパンオマージュのパン屋さんのかご。こういうかごが陶器の持ち運びにも便利です。

 

 

釉薬も薄めにかけて地薬、焼き締め、鉄薬、緑青、織部っぽいの、銅、などなど

 

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焼き上がりがこちら

 

奥が“酸化”で焼いたもので 手前が“還元”で焼いたものになります。

 

酸化というのは酸素が十分に供給された 完全燃焼 の状態で温度をあげていく焼き方で、電気窯がよく使われます。

一方還元というのは酸素を遮断し、不完全燃焼の状態で温度をあげていく焼き方で、庚申窯では灯油窯を使います。

 

酸化と還元で釉薬の色がかなり変わりまして、

たとえば上野焼の“緑青(ろくしょう)”は酸化ですと緑色、還元だとピンク色になります。写真の一番左のものが酸化、還元どちらも同じ緑青ですね。

 

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こちらも黒い色になっているのが還元で焼き締めたもので、

色の薄いのは素焼きのままのもの。

色が黒っぽくなるのは不完全燃焼で出る黒い煙が地肌に取り込まれるからです。

 

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この舌(ぜつ)をひもで吊るして一つ一つ音を見ていきます。

この舌の大きさや固さ(焼き締めの方が固い)、風鈴本体の釉薬や形の組み合わせで微妙に音が違います。

 

 

音のいい順に左から並べてみることに。

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この音のいい順というのは

何度も何度も音を出しすぎて

いったいどの音がいいのか、音の善し悪しなんてそもそもあるのか、なにかと順位をつけてしまうことがいろいろなトラブルにつながっているんじゃないのか、オンリーワンが花で鈴だ!

 

と 混乱してきてもう形の気に入った順でいいやというのがこの並び。

 

これは例えるなら空港の免税店などで香水でも買おうとしていろいろと匂いをかいでみるものの、前の残り香なんかで次第次第に匂いがわかんなくなって結局 瓶のデザインで選んじゃう っていうのと同じですね。

 

 

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楽しい工作の時間。

ここで気づいたことは舌が小さすぎると音が鳴らないということです。

 

この因果関係をたどると

陶器はガラスよりも音の出が悪い ☞ 陶器を大きく響く形にすることでカバー ☞ その分普通の風鈴より遥かに重くなる ☞ 丈夫なひもを使わざるを得ない ☞ ひもが固く・重いので、また風鈴本体が大きいので生半可な風では舌と本体があたらない ☞ 音が出ない

 

ってことですね。なので微風でも音を鳴らすためには横長の棒みたいなものを水平に取り付けます。

しかも舌は素焼きのものの方がいい音が出ていて(僕の感覚では)そうなると作っておいた舌がまるで足りないという事態に。

ここは以前父が作っておいたっぽい舌が残っていたのでそれを使用。父グッジョブ!

 

 

 

 

そんなこんなで完成。

さて音はどんな感じでしょうか。

この下のリンクから試しに聞いてみてください。

 

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